サクラマス稚魚の浮上後の移動分散に関する生態学的研究

サクラマス稚魚の浮上後の移動分散に関する生態学的研究

レコードナンバー651968論文タイプ学術雑誌論文
ALIS書誌IDZZ00011421NACSIS書誌IDAN10282121
著者名永田 光博
書誌名北海道立水産孵化場研究報告 = Scientific reports of the Hokkaido Fish Hatchery
発行元北海道立水産孵化場
巻号,ページ56号, p.1-87(2002-03)ISSN02866536
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抄録アジアの極東地域にのみ分布し、その中心に位置する北海道のサクラマスはサケ、力ラフトマスと並び北海道の重要な水産魚種である。しかし、近年漁獲量が減少傾向にあることから、資源保護並びに増殖技術の確立が望まれている。サクラマスは河川生活期が1年以上と長く、降海型と河川残留型に分岐することから、この期間中の移動、生残、成長等の生態学的研究が多くなされ、それらは資源保護や増殖技術の改良に応用されてきた。しかし、初期生残にもっとも影響があると考えられている浮上後の移動、分散、そして定着後の河川環境に関する研究はほとんど解明されていない。 本研究では浮上稚魚の移動のメカニズムと生態的役割、そして定着環境を解明することを目的として、人工河川での移動実験及び自然河川での蛍光物質アリザリンコンプレクソンを用いた耳石標識発眼卵の埋没放流試験により、移動に影響を与える諸要因の検討、並びに目視観察及び電気漁具採集による稚魚の分布と生息環境の検討を行い、以下の興味ある結果を得た。 人工河川での実験結果からサクラマス稚魚は浮上後、遡上と降下の二つの行動を示し、降下行動は夜間、遡上行動は日中に顕著となることが明らかとなった。さらに、流速が遅いと遡上量が増大し、逆に速いと降下量が増大したことから、浮上稚魚の遊泳能力は個体間で異なることが明らかとなった。また、大型の稚魚ほど上流へ移動することから、流れに対するサイズ依存性ないし社会性の存在も示された。 また、孵化場で継代飼育されたサクラマスは野生魚に比べ、遡上行動が顕著であった。浮上時のこの差は飼育による学習効果ではなく、遺伝的な違いであり、水路タイプの池では上流側の飼育環境が常に良好で、このような環境は遡上行動をする個体の生残に有利に働き、再生産を通して急速に個体群に広がったと考えられた。 人工産卵床から浮上した稚魚は、卵放流点より上流で採集されなかったことから、自然河川で春の融雪増水期に浮上した稚魚は放流点より下流へ移動することが判明した。一方、下流へ移動した稚魚は生息密度が少ないために、夏季の成長は上流の留まった稚魚よりも良好であった。 また、サクラマス稚魚は産卵床付近では雄の割合が60-70%と高いのに対して、下流に移動した稚魚では逆に雌が60-70%と顕著に高かった。複数の系群で同様に観察されたことから、北海道に生息するサクラマスに共通する重要な特性と考えられた。また、上流に留まった雄は下流に移動した雄よりも河川内で成熟する傾向の強いことも示された。 サクラマスは浮上前の発育過程の中で代謝活性に違いが生じ、河川残留型になる傾向の強い雄の多くは代謝活性の高い方に含まれると考えた。そして、これら代謝活性の高い雄は初期成長が良いため、流れに対する抗流性が高く、また社会的にも優位な位置を占める。このため産卵床付近には多くの雄が留まる。一方、代謝活性の低い雌の多くは下流へ移動する。また、上流側に留まった雄は初期成長が良いため春のホルモン効果を受けて成熟の引き金が引かれ、秋の最終成熟へと向かうと考えられた。浮上後の移動には河川型成熟雄と降海型未熟雄と雌との生活場の棲み分け機能と個体群全体としての成長の増大を保証する密度調節機能の二つの役割があると考えられた。 浮上して間もないサクラマス稚魚が分布した場所は水深が浅く、流速が遅く、水中植生カバーが優先する微環境タイプに集中した。融雪増水中に移動するサクラマス稚魚は遊泳能力が劣るため、速い流れの中での生活には適していない。したがって、瀬や淵といった河川の基本的構造からは外れ、大きな礫、倒木、水中植生等によって形成される水深が浅く、流れが遅い水辺がもっとも重要な生活の場となることが明らかとなった。
索引語サクラマス;稚仔;移動;分散;性;生息地
引用文献数168
登録日2011年03月05日
収録データベースJASI, AGROLib

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