菌類病に複合抵抗性をもつ組換えキク植物の作成に関する研究

菌類病に複合抵抗性をもつ組換えキク植物の作成に関する研究

レコードナンバー650838論文タイプ学術雑誌論文
ALIS書誌IDZZ00017577NACSIS書誌IDAA11232364
著者名高津 康正
書誌名茨城県農業総合センター生物工学研究所研究報告 = Bulletin of the Plant Biotechnology Institute, Ibaraki Agricultural Center
別誌名Bull. Ibaraki Plant Biotech. Inst
茨城農総セ生工研研報
発行元茨城県農業総合センター生物工学研究所
巻号,ページ5号, p.1-39(2002-03)ISSN13412809
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抄録キクは茨城県の主要な花き品目であるが、露地栽培が主であるために生産の現場では病害虫防除のために多大な労力を要しているのが現状である。対策のひとつとして抵抗性品種の導入が挙げられるが、実用的には重要病害である白さび病に加えて他の病害にも抵抗性をもつことが望まれる。しかしながら素材に乏しいことから従来の交配育種による複合抵抗性品種の育成は非常に困難である。一方、植物の形質転換は近年新たな育種技術として注目を集めており、病害抵抗性の増強、花色の変化、日持ち性の改良などさまざまな形質をもつ組換え植物が作出されている。本論文では、アグロバクテリウムを用いたキクの形質転換について、形質転換効率の向上および導入遺伝子の安定性などを検討し、形質転換を実用的な育種技術として確立した。また、植物に病害抵抗性を付与するとされるイネ・キチナーゼ遺伝子(RCC2)を導入した組換えキク植物を作出し、菌類病に対する抵抗性を検討した。とくに白さび病菌については、無菌培養植物を用いた効率的な検定方法を確立することにより抵抗性個体の選抜を試みた。これらの研究の結果、以下に要約するような成果が得られた。 1.アグロバクテリウムを用いたキクの効率的な形質転換系の確立 キクでは茎葉再分化能の品種間差およびアグロバクテリウムとの親和性の違いが著しく、これまでに海外を中心に報告されている形質転換の成功例は、ごく一部の品種およびアグロバクテリウムの系統を用いたものに限られている。そこで国内産キクを用いた実用的な形質転換系を確立するために茎葉再分化能の調査および市販のアグロバクテリウムLBA4404系統を用いた形質転換実験を行った。主要な23品種・系統のキクについて茎切片培養を試みたところ不定芽形成率には著しい品種間差があることが認められたが、比較的高い不定芽形成率を示す11品種がスクリーニングされた。その中の3品種(‘秀芳の力’、‘ニューサマーイエロー’および‘山彦’)についてアグロバクテリウムLBA4404系統を用いて形質転換実験を試みたところ、共存培養時にアセトシリンゴンを100μM添加することにより、NPTⅡ遺伝子を有する形質転換体が最高2.46%の効率で得られた。 2.組換えキク植物における導入遺伝子の不活化に関する検討 形質転換法による育種のためには、導入遺伝子の安定的な発現が不可欠である。アグロバクテリウムC58C1、MP90およびLBA4404系統を用いた形質転換実験の結果、いずれの菌系統においてもGUS遺伝子が導入された組換え体が得られたが、GUS活性はタバコの1/10程度と低かった。また、一部に導入遺伝子の存在が確認されているにもかかわらずその発現がみられない場合があった。次に、組換え系統におけるGUSの発現を経時的に調査したところ、獲得直後には比較的高いGUS活性を示していた系統でも、成育にともなってそのレベルが低下し、1年後にはほとんどゼロに近くなることが明らかとなった。このようにキクにおいては導入遺伝子の不活化現象が非常に起こりやすいことが明らかとなったが、中には長期間にわたり発現がみられる組換え系統も得られることが示された。実際の育種の場面では多数の組換え系統を得て、その中から導入遺伝子の安定的な発現がみられる系統を選ぷことが必要であり、またこの方法が当面、不活化現象を回避するための最も確実な方法であると考えられる。 3.イネ・キチナーゼ遺伝子導入による灰色かび病抵抗性キク植物の作出 アグロバクテリウムC58C1およびMP90系統を用いた形質転換により、小ギク‘山彦’にRCC2を導入した組換えキク植物を作出した。外植体当たりの形質転換効率は0.49%で16の組換え系統が得られたが、導入遺伝子を発現する系統は11に留まった。またキチナーゼの産生量には組換え系統の間で差異が認められた。一方、灰色かび病菌を用いた接種試験の結果、本病菌に対する抵抗性にも組換え系統の間で差異がみられた。抵抗性とキチナーゼの産生量はほぼ相関しており、組換え系統における抵抗性の増強は主としてキチナーゼ産生量の増大によることが示唆された。本実験の結果、灰色かび病菌に対し比較的強い抵抗性を示す3系統(Y12、Y61およびY97)およびY84を含む中程度の抵抗性を示す3系統の組換え植物が得られた。 4.無菌培養植物を用いたキクの白さび病菌に対する効率的な抵抗性検定法の確立 培養容器内で成育する無菌培養植物に白さび病菌を接種し(プラントボックス法)、絶対寄生菌である本病菌を継代培養できることを示した。また12品種・系統のキクを用いて白さび病菌に対する抵抗性検定を行ったところ、抵抗性の品種間差異を検出できることが示され、また無菌植物における白さび病に対する感受性と実際の圃場(温室)における感受性には正の相関(r=0.731*が認められた。以上のことから、プラントポックス法はキクの白さび病菌に対する抵抗性検定に有効であることが示された。本法は年間を通して実施可能なこと、小面積で大量の個体を勧的に扱えることなどから非常に効率的であると考えられる。 5.プラントボックス法による白さび病抵抗性組換えキク植物の選抜 イネ・キチナーゼ遺伝子を導入した11の組換えキク系統について、プラントポックス法に上り抵抗性検定を行ったところ、白さび病菌に対し抵抗性を示す3系統(Y61、Y84およびY97)が選抜された。しかしながらこれらの組換え系統は冬胞子堆の形成量の減少をともなう中程度の抵抗性を示すに留まり、灰色かび病菌に対するような比較的強い抵抗性を示す系統は得られなかった。また灰色かび病菌には抵抗性を示したY12系統は白さび病菌に対しては抵抗性を示さなかった。これらのうち抵抗性を示す3系統の組換え体についてキチナーゼの産生量を調査したところ、成育にともなって次第にその産生量は低下するが、病原菌の接種により再びその検出量が増大する現象が認められた。一方、Y12系統では成育にともなって産生量はほぼゼロにまで低下し、病原菌の接種によっても増大しなかった。これらのことから、上記3系統の抵抗性の増強は主としてキチナーゼ産生量の増大によることが示唆された.また抵抗性系統では葉肉組織内の白さび病菌の菌糸量が比較的少ないことが観察され、このことが冬胞子堆形成量の減少に関係していることが推察される。これら3系統は灰色かび病菌に対しても抵抗性を示すことが確認されており、本研究の結果、白さび病菌と灰色かび病菌に対し複合抵抗性をもつ組換えキク植物が作出された。
索引語キク;形質転換;遺伝子導入;抵抗性育種;組織培養;病害;選抜;検定
引用文献数89
登録日2011年03月05日
収録データベースJASI, AGROLib

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