日本の温暖地域におけるイチゴ促成栽培の安定化と適性品種育成に関する基礎的研究

日本の温暖地域におけるイチゴ促成栽培の安定化と適性品種育成に関する基礎的研究

レコードナンバー650988論文タイプ学術雑誌論文
ALIS書誌IDZZ20006215NACSIS書誌IDAA11648748
著者名野口 裕司
書誌名野菜茶業研究所研究報告
発行元農業技術研究機構野菜茶業研究所
巻号,ページ1号, p.37-95(2002-03)ISSN13466984
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抄録日本の温暖地域におけるイチゴ(Fragaria x ananassa Duch.)の促成栽培を安定化する観点から,促成栽培適性品種の育成を効率化し,温暖な西南暖地におけるイチゴ栽培の発展を図ることを目的として,(1)高温期における果実の肥大・成熟特性の品種間差と適性品種育成の可能性,(2)温暖地域で問題となっているイチゴ炭そ病に対する抵抗性の簡易選抜法の開発と高度抵抗性母本の育成,(3)促成栽培イチゴの需要を拡大するため,二倍性野生種の香気を栽培種へ導入すること,(4)多様な育種目標に対応できる遺伝資源の簡便かつ安全な長期保存法の開発,などについて検討した。1 イチゴ促成栽培の地域拡大および時期的前進化に伴う高温条件下における植物体の生育と果実の発育(1)生態的特性の異なる品種の高温条件促成栽培における生育,収量および果実品質の差 低緯度高温地域(沖縄県)における促成栽培では,他の地域の促成栽培に比べて,果実糖度の変化は少ないが,酸度が高く,果皮色が濃くなり,特に果実硬度の低下が激しかった。低緯度高温地域での促成栽培において収量を上げるには,頂花房に続く腋花房を,短い間隔で連続的に形成する品種を用いること,または,頂果房のみによるか,頂果房と第1腋果房とによって収量を上げる品種を用いることが望ましく,連続的花房形成型品種としては,‘女峰’,‘章姫’,‘サマーベリー’が,頂果房重点型品種としては,‘Pajaro’,‘Florida Belle’が収量性では有望であった。総合的にみると,‘さちのか’や‘北の輝’のように,収量はそれほど多くはないが果実品質の優れている,特に,果実硬度の高い品種が,高温条件下での促成栽培に対する高い適応性をもつと判断された。(2)促成栽培型品種の花芽形成早期化による高温期での果実肥大能の差 平均果重は,成熟期間の平均気温に大きく影響され,成熟期間および積算温度の影響は小さかった。平均気温が上昇すると,平均果重は減少したが,その減少率には,品種間差は認められなかった。しかし,高温期の果実肥大能力には品種間差がみられ,通常の温度条件下において大果性を示す品種の果実肥大能力が,高温条件下においても高いことがわかった。高温肥大性の高い品種の育成は,作型に関わらず,大果性系統の選抜を繰り返すことにより可能であると考えられた。2 促成栽培で多発するイチゴ炭そ病(Colletotrichum gloeosporioides)に対する抵抗性の選抜法と抵抗性系統の育成(1)分離葉柄浸漬接種法を用いたイチゴ炭そ病抵抗性系統の簡易選抜法 展開した上位第4葉を用い,小葉を切除した葉柄の切断面を,イチゴ炭そ病菌の胞子懸濁液(10 5個/ml)に浸漬して接種し,25℃条件下で発病させ,接種7日後に病斑の大きさを測定することによる,効率的な抵抗性選抜法が確立された。分離葉柄浸漬接種法では,葉柄のみを採取し,切断面から感染させることから,圃場条件下で発現する抵抗性を完全に表していないので,通常の品種・系統の抵抗性評価には不適当であるが,抵抗性の高い品種・系統の選抜手法として優れている。また,保温・保湿設備を備えた広い隔離ハウスなどの施設を必要としないので,実験室内などの極めて狭い場所で,多数の品種・系統を対照として病害抵抗性系統の選抜を行うことができ,さらに,検定対象植物の感染・枯死を招くことがなく,さらに,自然環境に左右されずに発病条件を設定することが可能で,年間を通じて検定試験を行うことができるという利点がある。(2)炭そ病高度抵抗性系統‘久留米素材1号’および‘久留米素材2号’の育成経過とその特性 イチゴ炭そ病に対して,既存品種・系統の中で,最も強い抵抗性をもつ育種素材系統‘久留米素材1号’,‘久留米素材2号’を育成した。これらの系統は,萎黄病およびうどんこ病に対しても,実用上は問題のない水準の抵抗性をもっている,複合抵抗性系統であった。3 特異的芳香を有する促成栽培適応型イチゴ品種の作出に利用できる素材系統の育成(1)特異的香気を有する二倍性野生種Fragaria nilgerrensisと八倍性栽培種F. x ananassaとの交雑による五倍性種間雑種の作出 栽培種‘とよのか’を母親,F. nilgerrensis‘雲南’を花粉親とした交雑から,実生苗を育成することができた。これらの種間交雑実生には,開花した個体もあったが,全て不稔であった。(2)不稔性種間交雑系統の染色体倍加処理による結実性種間雑種系統の作出 コルヒチンによる染色体倍加処理により,結実するようになった種間交雑系統は,PCRによる雑種性検定の結果,‘とよのか’と‘雲南’との雑種であることが確認された。作出された結実性種間雑種系統から,草勢が強く,栽培品種とほぼ同等の果実品質であり,かつ野生種の芳香性をもっている‘久留米IH1号’を育成した。(3)二倍性野生種由来の芳香を有する種間雑種系統‘久留米IH1号’の収量,果実形質 芳香性の‘久留米IH1号’の収穫開始日は,‘とよのか’とほぼ同じであった。総収量は‘とよのか’よりやや少ないが,商品果率は高かった。果実は大きく(13g),果形は短円錐形であり,糖度(Brix)は高かったが,果実硬度は低く,果皮色は極めて淡かった。‘久留米IH1号’は,栽培品種に近い特性をもつことから,特異的な香りのある青果用品種としての実用栽培適性をもつが,香気を活かした加工ヘの利用が有望であると考えられる。(4)栽培品種との戻し交雑による種間雑種系統‘久留米IH1号’の果実品質(果皮色,果実硬度)の改良‘久留米IH1号’の香気成分組成は,‘雲南’に類似し,Ethyl acetate含量が高く,Ethyl n-butyrate含量は低く,モモの香気に似た芳香を有していた。さらに,既存の栽培品種と戻し交雑することにより,特有の香気を保持したまま,果皮色,果実硬度などの他の形質を改良することが可能であり,芳香性育種素材系統として有用である。4 温暖地域における多様なイチゴ遺伝資源の安全・簡便な保存法としての低頻度継代培養法の開発(1)遺伝変異の発生を抑制する培養法の作出 芽条変異などの突然変異発生の危険性を回避するため,過剰なシュート形成を抑制するには,基本培地としてB5培地を用い,BAなどの植物生長調節物質無添加の寒天培地(ショ糖2%添加)上に,やや大きな茎頂(約1.0mm)を置床して培養する方法が有効であった。(2)低温条件,生育抑制培地および小型培養容器による培養体の生育抑制 イチゴ幼植物体の伸長抑制法としては,培地へのウニコナゾールPの添加,および低温下での培養の効果が大きかったが,ウニコナゾールP添加培地では,茎葉数が増加し,生育は抑制できなかった。これに対し,低温条件下で,小型バイアルを用いた培養法の生育抑制効果が高かった。以上の結果から,植物生長調節物質無添加のB5培地上に,大きめの茎頂を置床し,再生した植物体の茎切片を,小型バイアル内のB5培地上で培養し,低温条件下(5℃・明条件)で保存する方法,すなわち,小容器・低温遭遇型低頻度継代培養法が開発された。(3)培養幼植物体の長期保存を目的とした小容器・低温遭遇型低頻度継代培養法 小容器・低温遭遇型低頻度継代培養法により,継代培養を行うことなく,多くの品種・系統の培養幼植物体を約4.4年(1602日)間保存することが可能であった。また,保存終了後の幼植物体を通常の温度条件で培養することにより,速やかに植物体を得ることが可能であった。(4)小空間・低温遭遇型低頻度継代培養保存後の植物体の栽培適性とその保存法の実用性 小容器・低温遭遇型低頻度継代培養法により,約4.4年間保存した幼植物のその後の状態についてみると,草勢の強化はみられたが,遺伝変異は特に認められなかった。小容器・低温遭遇型低頻度継代培養による,イチゴ遺伝資源の長期保存法は,温暖地域における,小面積,少労力で,安全かつ簡便に保存することが可能であり,遺伝変異の発生についての抑止効果も高いと推測されることから,遺伝資源の保存法として実用性の高い方法であると判断された。
索引語イチゴ;温暖地;促成栽培;適性;品種;育成;日本
引用文献数102
登録日2011年03月05日
収録データベースJASI, AGROLib

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