抄録 | 一般にアユの媒精作業は乾導法により行われている。すなわち、腹部圧迫により採卵した卵に適量の精液を媒精し、混合した後に、水中で魚巣に着卵させながら受精させている。アユの精子は、Kイオンなどの精漿成分が薄まることにより運動を開始するため、従来の乾導法では着卵時に運動を開始するとされている。このとき精子は、多量の飼育水で希釈させることによってその密度が大幅に低下してしまう。この精子密度の大幅な低下は、全雌アユ作出時のように低濃度精液を用いなくてはならない場合において、発生率の低下原因となる可能性がある。この問題を防ぐためには、着卵前に適量の受精液を加えて精子の運動開始を誘導することにより、運動開始時の精子密度を適正に保てば良いと考えられる。(以下、効率的な受精を目的として媒精から着卵までの間に加える液を受精液とする。)アユの受精液については、雌性発生魚作出時に生理食塩水を用いた事例や全雌アユ作出時にコイ受精液を用いた事例などの報告があるが、その使用方法や有効性を発生実験によって検証した報告は見あたらない。そこで本研究では受精液の有効性を発生実験により検証することを目的とし、1.媒精から着卵までの経過時間と発眼率との関係(従来の乾導法における問題点の確認)2.受精液量と発眼率との関係3.受精液使用による発眼率の改善効果の確認について検討した。 |