春まきパン用コムギ品種の栽培法による収量・品質安定化に関する研究

春まきパン用コムギ品種の栽培法による収量・品質安定化に関する研究

レコードナンバー831218論文タイプ学術雑誌論文
ALIS書誌IDZZ20039973NACSIS書誌IDAA12529937
著者名佐藤 三佳子
書誌名北海道立総合研究機構農業試験場報告
別誌名Report of Hokkaido Research Organization Agricultural Experiment Station
発行元北海道立総合研究機構中央農業試験場
巻号,ページ131号, p.1-58(2012-01)ISSN21861064
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抄録パン用コムギの需要は高いが,年次により収量や品質の水準が一定していない。そこで,春まきパン用コムギ収量とタンパク質含有率の安定化を目的として,生育診断法,栽培技術の高度化,特に窒素追肥法の改良について検討し,品種特性に応じた栽培指針を作成した。その概略は以下の通りである。1. 春まきコムギの生育診断(1)穂揃期における生育診断技術の開発。春まきコムギの子実タンパク質含有率を推定するために,北海道北部地域の「春よ恋」の穂揃期の生育診断法について検討した。まず,成熟期の窒素含量,収量,子実タンパク質含有率の関係を精査した結果,成熟期の窒素含量を窒素含量2g m-2水準別に区切り,各区切り毎に子実タンパク質含有率と収量との関係をみると,窒素含量が8g m-2以上14g m-2未満の範囲では両者に高い負の相関関係が認められた。次に,これら成熟期の形質と,穂揃期の草丈,展開第2葉葉色値,穂数およびそれらの積との関連を検討した結果,成熟期の窒素含量は,「穂揃期の草丈×展開第2葉葉色値」との相関が高かった(r=0.872,P<0.01)。収量は,「穂揃期の草丈×展開第2葉葉色値×穂数」との相関が高かった(r=0.826,P<0.01)。これらの結果から,子実タンパク質含有率適正化のための穂揃期の生育診断法を策定した。すなわち,穂揃期の生育から成熟期窒素含量と収量を推定し,そこから子実タンパク質含有率を推定する。この推定法は,収量の予測が必要なのでこれに伴う推定誤差が生じるが,子実タンパク質含有率の高低を穂揃期に予測する必要がある場合や追肥要否を穂揃期に検討する場合に,圃場で簡易に使用する実用的な推定法として利用できる。(2)タンパク質含有率推定に適した測定葉位,測定時期の検討。葉色値のみによるタンパク質含有率の推定法について,時期別に被覆処理を行うことで葉色値の異なる生育状況を作出し,より詳細に検討した。その結果,測定葉位は展開第2葉が適していたが,調査時期は穂揃期よりも開花期~開花揃期がより適していることが明らかとなった。また,葉身窒素濃度2.0%以下では,転流がほぼ終了しており,生育診断には不適であった。2. 追肥技術の高度化による収量・品質安定化手法の開発。北海道北部地域で生育させた春まきコムギ「春よ恋」における開花期以降の尿素葉面散布(1回につき窒素成分で0.92g m-2,計2.76g m-2が,収量,子実タンパク質含有率に与える効果と,その効果が栽培条件の違いによりどのような影響を受けるか検討した。その結果,開花期以降3回(開花期,開花期から7日目,開花期から14日目)の尿素葉面散布は,硫安土壌施用や開花期以降2回の尿素葉面散布よりも安定的にタンパク質含有率を向上させる効果があり,同時に千粒重と収量を増加させる傾向が認められた。ただし,倒伏や生育途中での葉の黄化が発生した場合,尿素葉面散布の効果は劣った。尿素葉面散布区のタンパク質含有率(y)は,無散布区のタンパク質含有率をx(%)とすると,y=0.790x+3.6(9.6<x<13.9,n=25,r=0.973,P<0.01)の回帰式で示された。すなわち,無散布区のタンパク質含有率が高くなるような条件下では,尿素葉面散布の効果は低減し,逆に,タンパク質含有率が低くなるような条件下では,効果が高まることが明らかとなった。タンパク質含有率は窒素施肥条件に影響されることから,窒素施肥条件の多少により尿素葉面散布の効果は変動すると推測された。3. 品種特性に応じた栽培指針の構築(1)新品種「はるきらり」の窒素施肥法。春まきコムギ「はるきらり」は2007年に北海道優良品種となったパン用品種である。この「はるきらり」は,「春よ恋」よりもタンパク質含有率が低くなりやすいが,多収で耐倒伏性が優れる。そこで,「春よ恋」と「はるきらり」の窒素施肥反応の差を明らかにし,「はるきらり」のタンパク質含有率をパン用コムギとして適切な範囲(11.5~14.0%)となるような窒素施肥法を策定した。すなわち,1)「はるきらり」の耐倒伏性から判断して,基肥窒素量は12g m-2を超えない範囲で,「春よ恋」の標準施肥量に3g m-2の増肥が適当である。ただし,例年「春よ恋」で著しい倒伏を生じるような圃場においては,既に多量の窒素施肥が行われていると判断できるため,これ以上増肥すべきではない。2)「はるきらり」のタンパク質含有率は低くなりやすいため生育診断の必要はなく,開花期以降に行う窒素の後期追肥は,基肥窒素量に関わらず,タンパク質含有率と品質・子実重の向上のために必ず行う。3)道北地域など少雨条件になりやすい地帯は,開花期以降の葉面散布3回,道央地域などそれ以外の地帯では同4回または止葉期の硫安土壌施用を行う。ただし,収量水準が600~660g m-2となるような多収圃場では,耐倒伏性とタンパク質含有率を安定的に両立させることが難しく,本栽培法によってもパン用コムギとして必要とされる基準値の下限に達しない場合がある。(2)播種期・播種量の差が生育・収量に及ぼす影響。新品種「はるきらり」と現在の基幹晶種である「春よ恋」に対して播種期および播種量試験を行い,播種の遅れによる収量の低下程度と播種量の多少が生育や収量に与える影響について明らかにした。その結果,「はるきらり」と「春よ恋」は,共に播種が遅れるにつれ直線的に収量が低下したため,両品種の晩播適性は同等であり,融雪後可能な限り早く播種することが重要であった。播種量の増減は,「はるきらり」の穂数や収量に大きな影響を及ぼした。特に播種量の減少は穂数を減少させ,減収したことから,340粒m-2の現行播種量を厳守すべきであった。(3)開花期までの生育差が収量に及ぼす影響。開花期までの生育差が収量に与える影響について検討するために,窒素施肥量,播種期,播種量条件を揃えた試験区に対し,出芽期から止葉期,出芽期から幼穂形成期,幼穂形成期から止葉期までのそれぞれの期間に被覆処理し保温することで,開花期の生育が異なる試験区を作出し,以降の生育を解析した。これらの処理に窒素含量の差はなかったが,幼穂形成期に被覆により保温された区で窒素濃度は低かったが,多収となった。これは,上位葉の葉面積と一穂粒重が確保されたためと考えられた。したがって,本試験の栽培条件下では,幼穂形成期の気温が開花期までの生育に影響を及ぼし,収量に対する制限要因となったと推定された。開花期までの生育量確保は,栽培法のみで解決することは困難であることから,低温下でも生育量が確保できるような特性を持った品種の導入が望まれる。以上から,生育期間の短い春まきパン用コムギでは,品種特性や栽培環境に応じて1)初期生育の確保と耐倒伏性の両立,2)生育診断によるタンパク質含有率の推定,3)追肥方法の選択の3点を解明することが栽培技術の構築に必要であった。
索引語開花期;収量;穂揃期;タンパク質含有率;生育;検討;春よ恋;影響;成熟期;穂数
引用文献数136
登録日2013年10月08日
収録データベースJASI, AGROLib

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