養殖ノリ色落ち原因珪藻Eucampia zodiacusの大量発生機構に関する生理生態学的研究

養殖ノリ色落ち原因珪藻Eucampia zodiacusの大量発生機構に関する生理生態学的研究

レコードナンバー831687論文タイプ学術雑誌論文
ALIS書誌IDZZ20018282NACSIS書誌IDAA1199599X
著者名西川 哲也
書誌名兵庫県立農林水産技術総合センター研究報告. 水産編 = Bulletin of the Hyogo Prefectural Technology Center for Agriculture, Forestry and Fisheries. Fisheries section
発行元兵庫県立農林水産技術総合センター
巻号,ページ42号, p.1-82(2011-10)ISSN13477757
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抄録ノリ養殖が盛んな播磨灘では,1990年代半ば以降,中心目珪藻Eucampia zodiacusがほぼ毎年のように大量発生するようになり,深刻な色落ち被害が頻発している。本研究は,E. zodiacusがなぜ近年になって毎年大量発生するようになったのか,また本種が大量発生した場合,なぜ甚大な色落ち被害が発生するのか,そのメカニズムを解明し,本種によるノリ色落ち被害軽減に向けた基礎資料を得ることを目的として実施した。その主な内容は次の通りである。播磨灘における1973年4月~2007年12月まで、35年間の海域環境と植物プランクトンの長期変動を解析した。E. zodiacusの出現は毎年確認され,1990年代半ば以降,出現密度が増大し,季節的には1~4月に細胞密度が高くなる傾向が認められた。一方,植物プランクトン全体の細胞密度は,1970年代~1980年代前半に高く,1980年代前半に減少し,以降はほぼ横ばいであった。植物プランクトンの大部分は珪藻で,種組成は1970年代~1980年代前半は,Skeletonema spp. が大部分を占めていたが,1980年代半ば以降はChaetoceros spp. をはじめ他種の占める割合が増大した。35か年の間,海域環境では冬季の最低水温に有意な上昇とDIN濃度に有意な低下が検出され,植物プランクトンの長期変動はこのような海域環境の影響を受け,E. zodiacusにとってはそれが有利に作用していると考えられた。培養実験によってE. zodiacusの増殖に及ぼす光強度,温度,塩分および栄養塩の影響を調べた。本種の光強度に対する各増殖パラメータ値は,いずれも温度の上昇とともに増大した。E. zodiacusの増殖可能水深(D1)および0.5divisions d-1の増殖速度を与える水深(D0.5)は,本種のブルーム形成期に上昇した。このことから,表層~底層にかけて分布する本種にとって,水柱内で増殖可能な水深が鉛直的に拡大することは,本種が大量発生するために重要な要因の一つであることが示唆された。本種は,温度7℃以上で増殖し,広範な温度,塩分条件下で増殖が可能であった。最大増殖速度は,温度25℃,塩分25の条件下で3.0divisions d-1と見積もられ,珪藻の中でも高い増殖速度を有していることが明らかとなった。一方,本種は現場海域において水温が10℃を下回る低水温期にブルームを形成することから,近年の播磨灘における最低水温の上昇は,本種の大量発生にとって重要な環境要因となっていると考えられた。E. zodiacusの増殖に及ぼす栄養塩(窒素,リン,珪素)濃度と増殖速度の関係はMonodの式で表すことができた。E. zodiacusのKs値(最大増殖速度の1/2を与える栄養塩濃度)は,DINと珪酸においては周年を通してKs値が播磨灘における栄養塩濃度の月平均値よりも下回った。また,本種の最小細胞内栄養塩含量は他の有害赤潮種と比較してかなり低いことが判明した。さらに,E. zodiacusは実験に用いた14類の有機態リンを,全て増殖に有効利用することができた。このような栄養条件に対する増殖生理学的特性から,本種は海域の栄養塩が枯渇するまで増殖を繰り返すことが可能であること,栄養塩レベルが低下傾向にある播磨灘において,他種との栄養塩を巡る競合に有利であることが示唆された。窒素,リンの取り込みに関する動力学的解析から,E. zodiacusの栄養塩取り込み能をVmax(最大比取り込み速度)およびVmax/Ks(最大比取り込み速度/半飽和定数)値を指標として他種と比較した結果,E. zodiacusは優れた窒素取り込み能を有し,それは低水温下においても維持されていることが明らかとなった。播磨灘北部沿岸域において,E. zodiacusの周年を通した細胞密度と細胞サイズ(頂軸長)の変動を詳細に調べた。4年間の調査期間を通して,E. zodiacusの栄養細胞はほぼ周年観察することができた。また,細胞サイズは10.8±0.69~81.2±1.4μmの範囲で変動し,サイズの減少と回復には周期性と連続性が認められた。すなわち,本種の細胞サイズは毎年1回,秋季に最小となり,その直後に最大値まで回復した。このことから,本種は至適増殖環境条件下である秋季に増大胞子の形成などによる細胞サイズの回復を図っていることが示された。また,本種は休眠期細胞を形成しない,または少なくとも播磨灘の海洋環境下では休眠期細胞の期間が他種に比べて非常に短い種であると考えられた。E. zodiacusが細胞サイズ回復後,ブルームを形成するまでに要した積算日数と,サイズ回復期である秋季個体群の平均細胞密度には負の相関関係があることを見出した。この両者の関係から,秋季に細胞サイズを回復した個体群を,本種ブルームのシードポピュレーションと見なし,秋季の細胞サイズ回復時期と平均細胞密度をモニターすることによって,その年のノリ養殖漁期における色落ち発生時期の予測が可能であることを示した。以上,E. zodiacusの環境諸要因に対する増殖生理学的特性と生活環から,本種の播磨灘における大量発生機構が明らかとなり,本種が近年の播磨灘の海域環境によく適応した生理生態学的特性を持ち,それは一方で他種に比べて甚大な色落ち被害を発生させる要因となっていることが本研究によって解明された。
索引語zodiacus;本種;播磨灘;増殖;秋季;細胞サイズ;他種;栄養塩;回復;大量発生
引用文献数206
登録日2013年10月08日
収録データベースJASI, AGROLib

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