落葉広葉樹林における樹木集団の遺伝的動態

落葉広葉樹林における樹木集団の遺伝的動態

タイトル落葉広葉樹林における樹木集団の遺伝的動態
担当機関森林総合研究所
区分(部会名)森林
背景・ねらい生態系における樹木の集団構造を遺伝学的立場から捉えようとする試みは古くから行われてきたが、有効な手段がなかったために十分な深化は見られなかった。近年、さまざまな遺伝マーカーがこの分野に導入され、従来困難とされてきた遺伝子レベルでの諸現象の追跡が可能となりつつある。本研究では小川学術参考林のブナ集団を対象に、樹木集団が保有している遺伝的変異の維持機構、繁殖構造の解明と、それらに深く関与する種々の遺伝的パラメータの推定を行い、森林生態系における樹木集団の遺伝的な内部構造とその動態の解明を行うことを目的とした。
成果の内容・特徴ブナの更新は、種子の散布範囲と、その中に定着適地があるかどうかによって決まる。実際の地域集団で、次世代の担い手となる実生は、成熟(繁殖)個体に隣接しているギャップ内(写真1)に集中的に分布している。過去の繁殖によって生み出され、定着・更新が行われた古いギャップには、ほぼ同一世代と考えられるサイズが揃った若木が集中している(図1)。

遺伝子型の空間分布を調べてみると、ある遺伝子座では一定レベルの高い変異が地域集団全体にわたって維持されている一方、局在した遺伝変異も認められる。これらの遺伝的なモザイク構造は、トランセクト内のわずか数十メートルの範囲でさえ顕著であった。地域集団に見られるこのような空間的な遺伝構造は、繁殖システム、花粉飛散・種子散布の範囲、近接個体間での交配、定着地の成立環境などに起因すると考えられる。

一方、地域集団の中には、実生~若木~成熟個体にいたるまでの、さまざまなサイズの個体が含まれている(図1)。樹木は寿命が長いことから、実生(当年)から成熟個体(数百年前)にわたるそれぞれの繁殖の帰結が、現在の地域集団を構成している各生活史段階の階層構造の中に蓄積されている。様々なサイズクラスに内包されている遺伝変異を比較した結果、サイズごとに特有の遺伝変異が含まれていることが明らかになってきた。つまり、繁殖に寄与する母樹が繁殖機会によって異なるため、そこから生み出される各世代の遺伝組成が異なり、植物集団全体としての遺伝的多様性を維持していると考えられる。さらに、より長い時間のなかで過去に存在した母樹(現在既に死亡)の効果、あるいは、隣接する地域集団から新たに加入する(図2)新しい遺伝変異も樹木集団の遺伝的多様性の作出及び維持に貢献していることが示唆された。

なお、本研究は農林水産技術会議大型別枠研究「農林水産系生態秩序の解明と最適制御に関する総合研究」による。
具体的データ
写真1
図1
図2
研究担当者北村 系子(生物機能開発部 生態遺伝研究室)、中島 清(生物機能開発部 生態遺伝研究室 (現:企画調整部海外研究情報調査科))、島田 健一(生物機能開発部 生態遺伝研究室)、金指 あや子(生物機能開発部 集団遺伝研究室 (現:生態遺伝研究室))
発行年度1998
収録データベース研究成果情報

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