渓畔林の多様性と自然撹乱の密接な関係

渓畔林の多様性と自然撹乱の密接な関係

タイトル渓畔林の多様性と自然撹乱の密接な関係
担当機関森林総合研究所
区分(部会名)森林
背景・ねらい山岳地の森林地帯において渓畔林は陸と水の接点であり、種の多様性、河川の水温調節、野生生物への生息環境の提供など、多様な価値と機能を持つ森林である。しかし、渓畔林には伐採、治山・治水工事、道路の開設などの人為撹乱が集中し、良好な自然状態で保全されている渓畔林はもはや少ない。残された渓畔林は適切に保全し、荒廃した渓畔林は修復をしていく必要がある。渓畔林の特徴は何といっても河川の変動に伴う地表撹乱の影響下にあることである。本研究は、原生状態の渓畔林において地表撹乱と林冠部の撹乱にスポットを当てて渓畔林の成り立ちを追求し、今後の渓畔林管理に資することを目的とした。
成果の内容・特徴調査した渓畔林は岩手県西南部・焼石岳山麓を流れるカヌマ沢沿い(標高約400m)に分布している(写真1)。その中に、流路沿い380m、幅100~170mの試験地を設定した(面積約5ha)。内部には2.7haの渓畔林を含み、それに隣接する上方斜面には1haのブナ林が含まれている。1988年に試験地の設定を開始し、2年毎に胸高直径5cm以上の樹木をすべて同定・計測(直径・樹高)した。また、直径5cmに満たない稚樹、実生(当年生実生も含む)は、10m間隔で設置した1~4㎡の方形区でサンプリング調査した。開始年に記録的な集中豪雨があり、試験地内で砂礫の洗掘・移動が発生した。その際に、砂礫堆積物が約500㎡にわたって低木・草本層を覆い、樹木の更新が予測される裸地が生じた。この砂礫堆積地に2㎡の方形区を5個設置して樹木の定着過程を調査し、1996年以降は樹高30cm以上の樹木を全数調査した。

渓畔林とブナ林の種数面積曲線を比較すると、渓畔林の方が樹木種を豊富に含んでいた(図1)。これは、渓畔林がブナ林要素(ここでは上方斜面のブナ林を主な生育場所とするブナ・ミズナラ等の樹種と定義する)に加えて、トチノキ・カツラ・サワグルミ・オヒョウ・ケヤキ等のいわゆる渓畔林要素と呼ばれる種群や稀な種(オオバヤナギ、シロヤナギ等)を含むためであった。このことは、渓畔林が地域の樹木相を圧縮して小面積につめ込んだような存在であり、種の多様生を保全する上で重要な場所であることを示している。渓畔林において砂礫堆積地に定着した樹木の稚樹(樹高30cm以上、胸高直径5cm未満)の種数を非撹乱林床と比べた結果を図2に示す。最も顕著な特徴は、砂礫堆積地で稀な種が豊富なことであった。また、渓畔林要素も非撹乱林床よりも砂礫堆積地で種数が多かった。逆に、ブナ林要素は非撹乱林床の方で種数が多かった。渓畔林では砂礫堆積地と非撹乱林床がモザイク状に分布しているが、渓畔林の多様性を担っている種(渓畔林要素、稀種)は前者を利用し、ブナ林要素は安定した後者の林床を主に利用している様子がうかがえる。また、渓畔林内の強風・冠雪などで林冠部が撹乱されて生じたギャップと閉鎖林冠下で、同様の比較を行った結果では、ギャップでブナ林要素の種数が低い傾向が見られた(図3)。

以上の結果から、渓畔林独特の地表撹乱は渓畔林要素や稀種の定着を促して種の多様性を高める一方で、ギャップ形成はブナ林要素の定着を阻害して種の多様性を低めることが予想される。このことから、砂防ダムによる流量のコントロール、伐採などによる林冠の崩壊などの人為活動は、結果的に樹木相の多様性を低める行為であったことが推察される。

なお、本研究は農林水産技術会議大型別枠研究「農林水産系生態秩序の解明と最適制御に関する総合研究」による。
具体的データ
写真1
図1
図2
図3
研究担当者正木 隆(東北支所 育林技術研究室)、大住 克博(東北支所 育林技術研究室 (現:関西支所造林研究室))、高橋 和規(東北支所 育林技術研究室 (現:国際農林水産業研究センター))
発行年度1998
収録データベース研究成果情報

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