縄文時代後期に埋没したスギのDNA分析

縄文時代後期に埋没したスギのDNA分析

タイトル縄文時代後期に埋没したスギのDNA分析
要約三瓶小豆原埋没林から出土したスギの大型遺体からDNAの単離と核遺伝子の人工的な増幅に成功した。埋没スギの遺伝子は現存する天然スギの祖先的な塩基配列であることが明らかになった。
担当機関(独)森林総合研究所
区分(部会名)森林
背景・ねらい近年、DNA考古学が注目を集めています。これは古い地層に埋もれた生物材料から、古代の生物の進化や種の系譜、または当時の生物の種類数や植生などを研究する分野です。樹木においても、これまでに多くの化石または大型遺体が出土しています。1982年に島根県で発見された三瓶小豆原埋没林は、およそ3500年から3700年前の三瓶火山の最後の大規模な噴火活動による火砕流によって埋没したと考えられています。発掘調査では、スギを始め多くの樹木が出土しましたが、その材の保存の良さも明らかになりました(写真1)。そこで、この埋没林のスギからDNAを取り出し、現存するスギ天然林の遺伝的多様性と比較してみました。
成果の内容・特徴

DNAの抽出法

発掘されたスギ埋没木から保存状態の良い心材部分を削り、おがくず状になった木片を氷点下約196℃の液体窒素中でパウダー状になるまですり潰し、DNAの抽出を行いました。その結果、9本の埋没木のうち7本からDNAを単離することができました(図1)。

回収されたDNAの状態

回収されたDNAを電気泳動法で分離すると、大量に回収できたDNAでも激しく壊れているもの、また、DNA量が非常に微量のため検出できないものもありました(図2)。そこで、埋没スギの微量なDNAを用いて、特定の17遺伝子の領域をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で何万倍にも増幅することを試みました。

DNA塩基配列の解読

その結果、増幅に成功した5遺伝子のうち1遺伝子(GapC)においてのみ埋没スギ個体間にDNAの塩基配列の違いを検出することができました(図3)。このGapC遺伝子の違いを用いて、埋没スギ集団および近隣の現存のスギ天然林集団のDNA変異の大きさを解析し、時代の異なるこれら2集団間の差異を明らかにすることで、埋没スギ林の遺伝的特性を検討しました。

DNA分析結果

DNA変異の大きさは現存の天然林よりも低い値を示しましたが、このことは、埋没林の発掘現場がごく狭い範囲に限られたので、発掘されたスギが親子兄弟等の近縁関係にある少数個体である可能性を反映したものと考えられます。また、分子進化理論に基づく解析では、埋没スギのDNA変異は進化系統樹の分岐中心部に位置し、現存する天然林の祖先的な集団であることを示唆しました。一方で、現存の天然林から検出されたDNA変異には、他の集団や近代の人工林などから流入した変異、すなわち、新たな外来のDNA変異を含むと考えられます。
今回、古代の植物遺体から核の遺伝子のPCR増幅に初めて成功しました。また、スギゲノムデータベースを用いて、埋没スギから回収されたDNAの遺伝子の塩基配列を比較することにより、埋没スギの遺伝変異の大きさや現存するスギ天然林との遺伝的違いを明らかにすることができました。
具体的データ
写真1
図1
図2
図3
研究担当者谷 尚樹(森林遺伝研究領域 ゲノム解析研究室)、津村 義彦(森林遺伝研究領域 ゲノム解析研究室)、佐藤 仁志(島根県環境生活部)
発行年度2003
収録データベース研究成果情報

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