昆虫神経ペプチド、コラゾニンの新規生理作用の発見

昆虫神経ペプチド、コラゾニンの新規生理作用の発見

タイトル昆虫神経ペプチド、コラゾニンの新規生理作用の発見
要約 バッタの体色を黒化する神経ペプチドとして知られているコラゾニンが、カイコ幼虫脳から単離され、カイコでコラゾニンは吐糸の阻害という他の昆虫種にはみられない新規な生理作用を示した。
キーワード昆虫、神経ペプチド、吐糸、カイコ、バッタ
担当機関(独)農業生物資源研究所 発生分化研究グループ 成長制御研究チーム
連絡先029-838-6079
区分(部会名)生物資源
分類知的貢献
背景・ねらい脱皮・変態をはじめ昆虫の生命活動は哺乳類と同様、数多くの神経ペプチド類により制御されている。昆虫では同一構造の神経ペプチドが種によって異なる生理機能をもつことが報告されているが、こうした種特異性が生ずる機構については解明されていない。本研究では多くの昆虫種にほぼ同一構造の存在が知られているコラゾニンをモデルとして、昆虫の神経ペプチドが種特異的な作用を発現する機構を解明することを目的とする。
成果の内容・特徴
  1. カイコ5齢幼虫脳10,000頭分を出発材料として精製を進め、逆相液体クロマトグラフィーなど5段階のステップを経てコラゾニンの単離に成功した。カイコのコラゾニンはバッタ以外の昆虫種で単離されている[Arg7]-コラゾニンであると同定された。また、コラゾニン前駆体をコードするcDNAのクローニングにも成功した。
  2. カイコ4~5齢のさまざまな時期にコラゾニンを注射したところ、どの時期に注射しても吐糸期間のみが延長し、幼虫脱皮や吐糸の開始時期、体色等には影響がみられなかった(図1)。吐糸開始直前に注射した場合では、1pmolという微量でも有効であった。また、コラゾニンの注射により吐糸期の体液中の脱皮ホルモン量の上昇が抑制されたが、これはコラゾニンが吐糸量を減少させたことによる間接的な作用であることが明らかになった。吐糸の阻害は大型絹糸昆虫であるエリサンでも認められたが、糸をほとんど吐かないアワヨトウではまったく効かなかった。
  3. バッタのコラゾニンである[His7]-コラゾニンに様々な修飾を加えた類縁体を化学合成し、トノサマバッタにおける体色黒化誘導作用とカイコにおける吐糸阻害作用という二つの異なる生物検定系でコラゾニンの構造-活性相関を比較した。生物活性に重要なアミノ酸残基や側鎖等は両方の系でほぼ同じであり、コラゾニンはカイコとバッタで類似した構造の受容体を介して異なる生理作用を誘導することが示唆された。
  4. コラゾニンに対する抗体を用いて、様々な昆虫種における中枢神経系内のコラゾニンの分布を調べた(図2)。調べた昆虫種のうち、甲虫目を除いた6目の昆虫に陽性反応が認められ、いずれの昆虫でも脳側方部の神経分泌細胞が主な産生細胞で、そこから内分泌器官である側心体等に輸送され体液中に分泌されることが示唆された。これらの結果から、コラゾニンは多くの昆虫種、特にシミのような原始的な昆虫でも何らかの生理機能を担っていることが示唆された。

図1

図2
成果の活用面・留意点
  1. カイコやバッタ、エリサン等でコラゾニンの信号伝達機構や受容体の分布、発育に伴う分泌等を比較することが可能になり、同一の構造をもつ神経ペプチドが種特異的な作用を示す機構の解明につながる。
  2. カイコの前部絹糸腺におけるコラゾニンの作用機構を分子レベルで解析することにより、絹糸昆虫における吐糸の制御機構の一端が明らかになる。
具体的データ
図表
図表
予算区分科研費,交付金
研究期間2003~2005
研究担当者Roller L、華躍進、石橋純、田中誠二、田中良明
発表論文1)Tanaka Y, Ishibashi J, Tanaka S,(2003)Comparison of structure-activity relations of corazonin using two different bioassay systems. Peptides, 24 : 837-844.
2)Roller L, Tanaka Y, Tanaka S,(2003)Corazonin and corazonin-like substances in the central nervous system of the Pterygote and Apterygote insects. Cell Tissue Res,
312 : 393-406.
3)Tanaka Y, Hua Y-J, Roller L, Tanaka S,(2002)Corazonin reduces the spinning rate in the silkworm, Bombyx mori. J. Insect Physiol, 48 : 707-714.
発行年度2003
収録データベース研究成果情報

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