環境支払い政策の制度設計―行動経済学の政策適用―

環境支払い政策の制度設計―行動経済学の政策適用―

タイトル環境支払い政策の制度設計―行動経済学の政策適用―
担当機関評価・食料政策部 環境評価研究室
区分(部会名)農林水産政策
背景・ねらい多面的機能を発揮させる政策のひとつに環境支払い政策があるが,同政策プログラム参加の任意性を考えれば,農業者が積極的に賛同し,参加する制度を設計することは不可欠である。しかし,助成金の支払い方法や金額とその効果は単純ではなく,ヨーロッパの事例では,補助金額とその政策効果は負の関係が観察されている。そこで,(1)支払い総額が同じであるとき,農業者にとって満足度が高い助成金の支払い方法や,(2)減収に対する過剰なリスク回避的行動を軽減する制度の設計についての含意を得ることを目的とした研究を実施した。
本研究で設定した仮説のベースは行動経済学を適用した。行動経済学は2002年にD.カーネマンがノーベル経済学賞を受賞したことで,一層注目を集めることになった。認知心理学と経済学を融合させて,「生身の人間行動」を研究対象とすることが特徴である。さらに,90年代以降は行動の法と経済学(Behavioral Law and Economics)として,米国を中心に少しずつ政策研究にも適用されつつある。なお,本研究で使用した分析用データは,山形県米沢市の農業者に調査票を配布して収集した。
成果の内容・特徴行動経済学の基礎研究,およびヨーロッパにおける環境支払いの事例から仮説を設定して検証したが,主な結果は以下の2点である。
  1. 農業者は,inter-temporalな(数年の契約期間での)環境支払いが行われる場合,これまでの労働経済学研究で観察されたような「一年目の補助金支給単価は低く,最後の年に単価が増加する支払い形式(上昇)」は好まなかった。ただ,理論研究から支持される「一年目の補助金支給単価は高いが,最後の年に単価が下降するような支払い体系(下落)」も好まず,一定の支払いを好んだ(第1表)。より多くの農業者が好むのは,数年間安定して一定額補填することであり,これは最小の費用で最大の政策効果(より多くの農業者の参加)を発揮するという効率性を重視する支払い方法である。
    他方,すでに環境支払いが定着している欧州では,近年「環境支払いは慣行農法を環境保全的または粗放的な農法に転換したことによる所得損失を埋め合わせるための追加費用であるため,プログラムに継続して参加している農業者には,はじめて参加した農業者より少ない額が支払われるべき」との指摘もある。ドイツのNorth-Rhine Westphaliaにおける,有機農業に対する1ha当たりの支払い例では,1,2年目が最も高く,3~5年目になると下がり,5年移行は最も低い支払い単価を定めている。このケースは所得補填にかかる公平性を念頭において金額を設定したものであるが,多くの農業者の参加という効率性の面がおざなりにされていると考えることができる。
    環境支払いの制度設計に当たっては,これまで議論されることがなかった「効率性」を加味し,公平性,効率性のどちらに重きをおくのか,政策担当者が判断すべきことが示唆された。
  2. 農業者はしばしば期待収益の高い農法は選択せず,その意思決定は環境への言及などのフレーミングに大きく影響された。第2表のように最大・最小の収益と平均収益が提示された2つの農法(農法Aと農法Bのうちひとつ)のうち,どちらか一方好ましい方を選択してもらったところ,必ずしも期待収益の高い農法は選択されなかった。さらに,同じ提示金額であるにもかかわらず,環境への好影響を説明した場合(環境フレームあり),より高いリスクプレミアムを要求する農家が多いことが明らかとなった(第3表)。つまり,自分の農業活動が環境に好影響を与えていると強く認識する場合,それに見合ったリスクプレミアムを望んでいると解釈できる。
    一方,調査より,所得水準が「減少」するとの表現が影響し,実現される所得の減少水準を過大に評価していることも明らかになったことから,過剰なリスク回避的行動を軽減させるひとつの案として,農法あるいは政策の説明時には,所得の減少(現行の所得より○割減)ではなく,実現される所得の水準(現行の所得の△割)のアナウンスが好ましい。すなわち同じことを説明しても,「ヒトはリスクの感じ方が違うこと」を利用する方法であり,これは,行動経済学研究と整合的である。ただ,この様なアプローチは,ヒトが合理的ではないことを前提にしているため,倫理面での留保が必要といわれるが,近年,米国では訴訟保険制度や企業年金401(k)で大きな効果が観察された事例も報告されている。
具体的データ
(第1表)
第2表
(第3表)
研究期間2004~2004
発表論文佐々木宏樹,「農家行動の検証-行動経済学による環境支払いの制度設計に関して」,多面的機能プロジェクト研究資料の一部として刊行予定。
発行年度2004
収録データベース研究成果情報

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