イネの免疫システムをかいくぐるいもち病菌の感染戦略

イネの免疫システムをかいくぐるいもち病菌の感染戦略

タイトルイネの免疫システムをかいくぐるいもち病菌の感染戦略
要約植物には侵入したカビの表面(細胞壁)を認識し攻撃する免疫システムがあるが、いもち病菌は、イネが認識できないα-1,3-グルカンで自らの表面を覆うことによりイネの免疫システムをかいくぐり、感染を可能にしていると考えられる。
キーワードいもち病菌、イネ、免疫、α-1,3-グルカン、細胞壁、感染、MAMPs
担当機関(独)農業生物資源研究所 植物科学研究領域 植物・微生物間相互作用研究ユニット
連絡先029-838-8461
区分(部会名)生物資源
分類知的貢献
背景・ねらい植物病原性カビが農作物に与える損害は甚大であるが、植物はカビにただ攻撃されているだけではない。植物には侵入したカビ表面の細胞壁多糖のβ-グルカンやキチンを分解し、その分解産物を異物として認識し攻撃する免疫システムがある。しかし病原性カビはこの植物の免疫システムをかいくぐって感染することができる。そこで、これまで不明であった病原性カビによる植物免疫回避機構の解明を目的として、イネいもち病菌を用いて感染時の細胞壁構成について詳細な解析を行った。
成果の内容・特徴
  1. 感染過程におけるいもち病菌の細胞壁を構成する多糖(グルカン類、キチン)を蛍光染色剤を用いて解析した。イネに侵入したいもち病菌菌糸では表面からα-1,3-グルカンのみが検出されるが、α-1,3-グルカン分解酵素でα-1,3-グルカンを分解・除去すると、β-1,3-グルカンやキチンが検出された(図1)。すなわちイネ細胞内の侵入菌糸の細胞壁表面はα-1,3-グルカンで覆われ、その下にキチンや、β-1,3-グルカンが隠されていることがわかった。
  2. カバーガラス上で発芽したイネいもち病菌ではα-1,3-グルカンは付着器でしか検出されなかった(図2左)。しかし、植物ワックスを添加してカバーガラス上で発芽させたイネいもち病菌では、菌体全体への細胞壁へのα-1,3-グルカンの蓄積が見られた(図2右)。また、いもち病菌がイネへ侵入する際に働く経路が、イネ表面のワックスにより活性化され、細胞壁表層へのα-1,3-グルカンの蓄積を誘導することが明らかになった。
  3. 細胞壁にα-1,3-グルカンが蓄積したいもち病菌の菌糸は植物のキチン分解酵素により分解されにくくなった。
  4. キチンやβ-1,3-グルカンの分解産物はイネの免疫システムを活性化することが知られている。いもち病菌はイネがα-1,3-グルカンを分解できないことを利用し、細胞壁表面をα-1,3-グルカンで被覆してキチンやβ-1,3-グルカンを隠すことにより、イネの免疫システムからの攻撃を回避するといった巧妙な感染戦略をとっていると考えられる(図3)。
成果の活用面・留意点
  1. 分解や合成阻害などにより病原性カビの細胞壁表層からα-1,3-グルカンを除去することによって、農作物自らが本来持つ「免疫系の活性化により病原菌から身を守る」という新しいコンセプトに基づく防除法が開発されると期待される。
  2. イネいもち病菌と進化上遠い関係にあるヒト病原性酵母も、免疫系に認識される細胞壁成分をα-1,3-グルカンで覆い隠していることから、他の動植物の病原菌でも同様の感染戦略をとっているものがあると想像される。したがって、α-1,3-グルカンを標的とした防除法が開発できれば、広範囲の病原性カビへの効果を期待できる。
具体的データ
図1
図2
図3
予算区分受託(異分野融合、新農業展開)
研究期間2006~2009
研究担当者西村麻里江、藤川貴史
発表論文1)Fujikawa T, Kuga Y, Yano S, Yoshimi A, Tachiki T, Abe K, and Nishimura M. (2009) Dynamics of cell wall components of Magnaporthe grisea during infectious structure development. Molecular Microbiology 73: 553-570.
特許出願(公開)特願2009-079050「植物に対する微生物の感染を防止又は抑制する方法及び微生物感染抵抗性植物」西村麻里江、他7名
発行年度2009
収録データベース研究成果情報

研究成果情報アクセスランキング

Copyright 2017 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター

Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat