広葉樹の遺伝的多様性を守るために

広葉樹の遺伝的多様性を守るために

タイトル広葉樹の遺伝的多様性を守るために
要約広葉樹の遺伝的多様性を保全するために分布域全般の遺伝的多様性や遺伝的な違いを明らかにして、主要広葉樹について種苗の移動範囲を示す遺伝的ガイドラインを提案しました。
担当機関(独)森林総合研究所 森林遺伝研究領域
(独)森林総合研究所 林木育種センター
区分(部会名)森林
背景・ねらい樹木集団は長期的な気候変動に対応してその分布域を変遷させながら個々の環境に適応して生き残ってきています。そのため同一種でも地理的に遺伝的な違いが生じています。このように遺伝的に異なる集団を人為的に混ぜてしまうことは、これまでに数十万年という長い年月をかけて自然が作り上げた遺伝構造及び遺伝的多様性を壊してしまうことになります(図-1)。有用樹種、特に針葉樹のスギ、ヒノキ、アカマツ、クロマツの場合、林業種苗法で苗木の配布区域の指定があります。これはある程度、我が国の気候帯に則したものです。しかし、広葉樹にはその指定がなく、現状では全国どこへでも苗木を送り植栽することができます。そのため主要広葉樹について遺伝的多様性及び遺伝的な違いについて調査を行い、どの範囲であったら苗木を移動できるかの遺伝的ガイドラインが必要です。
成果の内容・特徴

遺伝的撹乱の実態

由来の異なるブナの苗を植栽された森林を調査したところ、日本海側のブナを太平洋側に植栽した場所では、先枯れが高頻度で起こり、生育が悪いことが分かりました(図-2)。また反対に太平洋側のブナを日本海側に植栽した場合も、生育が極端に悪いことが明らかになりました。このように由来の異なる苗は植栽しても様々な問題が生じる可能性があるため、それぞれの地域にあった苗を植栽することが望まれます。

広葉樹の地域による遺伝的な違い

広葉樹種苗の移動の遺伝的ガイドラインを提案するために、主要広葉樹のブナ、クヌギ、スダジイ、ヤマザクラ、ケヤキなど10種について分布域から広範に材料を収集し、DNAを解析し遺伝的多様性や地域による遺伝的な違いを調査しました。その結果、例えばヤマザクラでは地域による核DNAの遺伝的な違いは(FST=0.043、全体の4.3%が地域間の違い)低いものでしたが、九州と本州のグループでは遺伝的な違いがあることが分かりました(図-3)。遺伝的多様性は九州集団が本州集団に比べて有意に低い値を示しました。ケヤキについては分布域広範に42集団を収集し分析を行ったところ、葉緑体DNA多型データの結果では、西日本集団では多くの遺伝子のタイプが存在し、東日本集団に比べ遺伝的多様性が高い結果でした。ブナの葉緑体DNA多型の解析を行った結果、西日本では多くの遺伝子タイプが見られ、東日本に比べ遺伝的な多様性が高いことが明らかになりました。また核DNAの解析でも同様に西日本集団が、遺伝的多様性が高い結果が得られています(図-4)。またブナでは地域によって顕著な遺伝的な違いが検出されたことから、種苗の地域性を明らかにできるマーカーとして活用できることが分かりました。

遺伝的ガイドライン

このようにDNAの情報をもとに対象の全ての樹種で種苗の移動範囲を示す遺伝的ガイドラインを提案することができました。どの種も地域間の遺伝的な違いは大きくないため、日本全体が2から4地域程度に分割でき、その地域間では種苗の移動を避けるべきであるということが本研究の結果から示されました。

本研究は、「予算区分:環境省地球環境保全等試験研究費、課題名:自然再生事業のための遺伝的多様性の評価技術を用いた植物の遺伝的ガイドラインに関する研究」による成果です。
具体的データ
図-1
図-2
図-3
図-4
研究担当者津村 義彦(森林遺伝研究領域)、松本 麻子(森林遺伝研究領域)、上野 真義(森林遺伝研究領域)、津田 吉晃(森林遺伝研究領域)、吉丸 博志(森林遺伝研究領域)、高橋 誠(林木育種センター)、武津 英太郎(林木育種センター)、岩田 洋佳(中央農業総合研究センター)、陶山 佳久(東北大学)、斉藤 陽子(東京大学)、井出 雄二(東京大学)、小山 泰弘(長野県林業総合センター)、戸丸 信弘(名古屋大学)、向井 譲(岐阜大学)
発行年度2010
収録データベース研究成果情報

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