動くオスが遺伝子の多様性を守る

動くオスが遺伝子の多様性を守る

タイトル動くオスが遺伝子の多様性を守る
要約森林性の哺乳類であるエゾヤチネズミのミトコンドリアDNAの塩基配列を解析したところ、オスが森林内を広く移動することが、エゾヤチネズミ集団全体の遺伝的多様性の維持に役立っていることが分かりました。   
担当機関(独)森林総合研究所 関西支所
区分(部会名)森林
要旨一般に、遺伝子の多様性が低下した集団は絶滅しやすくなるため、生物集団の存続には遺伝子の多様性の維持が重要です。森林に住むエゾヤチネズミのミトコンドリアDNA の多様性の維持にオスとメスの行動の違いが果たす役割を調べたところ、生誕地からあまり動かないメスは、よく移動するオスと比べて場所ごとの多様性が低く、また地域全体をみると、オスに比べて遺伝子の変異の分布が不均一で偏っていました。集団全体の多様性は、オスの移動によって維持されているのです。他の多くの哺乳類でもメスはあまり動かず、オスだけがよく移動します。哺乳類の遺伝的多様性を保全するには、オスが移動できるような環境にすることが重要です。
成果の内容・特徴遺伝的多様性を保全するために
各地で森林の分断が進み、森林に依存して生きる生物のなかには移動できず、狭い地域に閉じ込められているものがいます。森林の分断によって生じた小さい集団では、他の集団との交流がなければ、生物多様性の要素である遺伝子の多様性が次第に低下します。野生生物の遺伝的多様性を保全するためには、個体の移動が多様性の維持にどのように働くのか明らかにする必要があります。そこで、エゾヤチネズミ(写真1)をモデル動物として、生息環境の分断化が進んでいない場所で、雌雄の分散行動が遺伝子の多様性にどのように影響を与えるかを調べました。

雌雄で異なる変異体の分布

海岸林内に2km に渡って直線的に設置した8 つの捕獲区(図1)でエゾヤチネズミ161 頭を捕獲しました。その筋肉細胞にあるミトコンドリアDNA の塩基配列の一部(約700 塩基対)を解読したところ(図2)、異なる配列を持つ変異体が18 種類見つかりました。どの捕獲区もオスの方で変異体の種類が多く、メスよりも遺伝的な多様性が高いことがわかりました(図3)。また、変異体の構成の違いを捕獲区の間で調べたところ、メスの方が捕獲区の間での違いが大きく、変異体が林内で不均一で偏った分布をしていること、それとは対照的にオスでは均一に分布していることがわかりました(図4)。
ミトコンドリアDNAは母親のものだけが子へ遺伝し、父親のものは遺伝しません。どの捕獲区でもオスの多様性がメスより高いということは、生息地が分断されていないこの海岸林では、様々な母親由来のオスが散らばり、各捕獲区に移動したことを意味しています。一方、メスは生誕地の近くに留まるため、捕獲区内では遺伝的に均質化し、多様性も低くなると考えられます。

研究の成果が示すこと
多くの哺乳類では、メスは生誕地の近くに留まり、オスは離れたところに移動して繁殖します。この研究の結果は、遺伝的多様性が低い哺乳類の孤立した集団(例えば、西中国山地のツキノワグマ)の多様性を上げるには、まずオスが移動できる経路を作ることで、他の集団との交流を促す必要があることを示しています。

本研究は、科学研究費補助金「エゾヤチネズミ個体群の遺伝的空間構造形成に関わる個体数変動と分散行動の効果」(22370006) による成果です。詳細はJournal of Heredity 104:718–724(2013) をご覧下さい。
具体的データ
写真1
図1
図2
図3
図4
研究担当者石橋 靖幸(関西支所)
発行年度2015
オリジナルURLhttp://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2015/documents/p56-57.pdf
収録データベース研究成果情報

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