植物の侵入病害の根絶を確認するための統計分析法

植物の侵入病害の根絶を確認するための統計分析法

タイトル植物の侵入病害の根絶を確認するための統計分析法
要約[ポイント]
  • 海外から侵入した「植物に感染する病気」が緊急防除により根絶されたことを所定の信頼度で確認するためのサンプリング理論を構築しました。
  • この理論に基づいて、2012 年 3 月に鹿児島県喜界島において、侵入病害であるカンキツグリーニング病の根絶が宣言されました。

[概要]
  1. 植物に感染する病気が海外から侵入した際に、その病気に対する防除を行った後には、病気が確実に根絶されたことを統計学的に所定の信頼度で確認する必要があります。そのためのサンプリング理論を構築しました。
  2. このサンプリング理論に基づいて、2011 年に植物防疫所により鹿児島県喜界島において、侵入病害であるカンキツグリーニング病の根絶確認サンプリング調査が行われ、2012 年 3 月にその根絶が宣言されました。
担当機関(独)農業環境技術研究所 生物多様性研究領域
連絡先029-838-8253
区分(部会名)農業環境
研究(開発)の社会的背景植物防疫において、植物の病気や害虫の侵入が国内で確認され、それがまん延して農作物等に対して甚大な損害を与える恐れがある場合、農林水産省はその病気や害虫の根絶に向けて「緊急防除(*1)」 を行います。植物の病気の場合、緊急防除実施中は、感染した植物を除去するとともに病気の拡散を防止するために、病気に感染しうる植物(宿主植物)の移動 が禁止されます。緊急防除によって病気の根絶に成功した場合には、宿主植物の移動を再開できますが、再開後に病気の拡散を招かないために、根絶が正しく行 われたかどうかを再開前にきちんと確認しておく必要があります。
しかし、侵入が確認された場所周辺の宿主植物の感染状況を全て確認することは容易ではありません。本研究では、宿主植物の一部を適時に調査することで、このような侵入病害の根絶を統計的に所定の信頼度をもって確認するための手法を構築しました。

*1 緊急防除: 植物の病害虫が新たに国内に侵入・まん延して、農作物に大きな被害を与えるまたはその輸出が阻害されるおそれがある場合、一部地域に封じ込め根絶するため、緊急的に宿主植物の作付けの制限・禁止、譲渡・移動の制限、消毒、除去、廃棄等を行う防除措置のこと。
研究の内容・意義
  1. 植物の病気が発見された地点周辺には、原則として二種類の区域が設定されます (図1)。A 区域では、感染しうるすべての宿主植物に対して、焼却あるいは薬剤散布を行うことにより、病気を完全に駆逐します。一方、B 区域では、感染しうる宿主植物の移動を禁止します。A 区域は1本の感染植物から拡散した病気の範囲(1コロニー)に相当しており、一方、B 区域は未発見のコロニーが存在する可能性の高い区域に相当します。
  2. A 区域だけでなく B 区域からも病気が根絶された場合に初めて緊急防除が成功となります。病気の根絶を保証するためには、B 区域において「リスク(*2)管理」を行う必要があります。ここでは、B 区域に1本以上の感染植物が存在した場合に、それを 95 %以上の確率で検出するようなサンプリング理論を構築しました。
  3. 感染樹の1年あたりの増加倍率を R 0 とし、植物が病気に感染してから病気が顕在化するまでの潜伏期間を d 年とします。病気が見られなくなってから t 年後に根絶を確認する場合を想定します。一般論として、病気が根絶されていることを 1-β の信頼度(*3)で確認する場面を考えれば、根絶を確認するために必要な植物の調査割合 f は、統計学的に f = 1 - βR 0d - t で計算できることを新たに示しました。
  4. このサンプリング理論は、一定の潜伏期間を有する動植物の病気に対して広く利用できます。

*2 リスク: 「ある悪い出来事が発生する確率」のことをリスクとよぶ。病気の根絶確認におけるリスク管理では、病気に感染した植物を検出できないことが「悪い出来事」である。
*3 信頼度( 1-β ): 抜き取り検査等の場合に用いられている考え方。ここでは、病気の根絶に対する信頼度で、95 %としている。β はいわゆる消費者危険率(詳細は論文を参照のこと)。
活用実績・今後の予定鹿児島県喜界島ではカンキツグリーニング病(*4) の発生が 2003 年に初めて確認され、その後カンキツ類への被害状況を確認して、2007 年に緊急防除が開始されました。同病の緊急防除を完了するにあたって、所定の信頼度をもって根絶確認を行うための手法が必要とされていました。
カンキツグリーニング病の場合には、文献値からの再計算等によって、潜伏期間 (d) は2年(Gottwald, 2010)、病気の1年あたりの増加倍率 (R 0) は3倍 (Gottwaldら, 1989) と推定しました (図2)。これらを上記計算式に代入すれば、病気の根絶を 95 %の信頼度で確認するための調査割合は、調査までの時間とともに 図3 に示されるような形で変化することがわかります。
喜界島では最後に病気が見つかったのが緊急防除を開始した 2007 年であり、その4年後の 2011 年に門司植物防疫所により根絶確認調査が実施されました。開発したサンプリング理論による計算結果 (図3) を使って、B 区域内で必要な調査本数を判断し、サンプリング調査が行われました。この調査において感染樹が見つからなかったことから、同年度末(2012年3月)に喜界島において根絶が宣言されました。

*4 カンキツグリーニング病: 世界中でもっとも深刻なカンキツ類の病気。この病害は細菌 Candidatus Liberibacter asiaticus 等によって引き起こされ、ミカンキジラミ Diaphorina citri Kuwayamaによって媒介される。
具体的データ
図1
図2
図3
研究担当者山村 光司(生物多様性研究領域 主任研究員)
発表論文山村光司, 植物検疫における外来生物根絶確認のための統計分析. 2014年度日本計量生物学会年会講演要旨集 100-109 (2014)
Yamamura K., Katsumata H., Yoshioka J., Yuda T., and Kasugai K., Sampling inspection to prevent the invasion of alien pests: Statistical theory of import plant quarantine systems in Japan. Population Ecology (印刷中)
発行年度2014
オリジナルURLhttp://www.niaes.affrc.go.jp/sinfo/result/result31/result31_07.html
収録データベース研究成果情報

研究成果情報アクセスランキング

Copyright 2017 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター

Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat