ブナ種子の超低温保存技術の開発
ブナ種子の超低温保存技術の開発
タイトル | ブナ種子の超低温保存技術の開発 | ||
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要約 | 地球温暖化による生育地の著しい縮小が懸念されているブナの種子の超低温(-170℃)保存技術を確立しました。これにより、従来は困難であったブナ種子の長期保存が可能となりました。 | ||
担当機関 | (国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所 林木育種センター | ||
(国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所 林木育種センター 関西育種場 | |||
(国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所 林木育種センター 北海道育種場 | |||
林野庁 | |||
区分(部会名) | 森林 | ||
背景・ねらい | ブナは日本の森林を構成する主要樹木の一つです。しかし、今後、地球温暖化によって生育地が著しく減少すると予測されており、日本のブナ遺伝資源の減少・滅失を防ぐための一つの方策として種子の長期保存が求められています。そこで私たちは、ブナ種子の超低温保存技術の開発に取り組みました。そして、ブナの種子が乾燥法によって、保存前に含水率を最適値に調整すると高い生存率を維持して-170℃で保存できることを明らかにしました。今後、全国で実施されているブナ林の保全・再生事業に貢献できるものと期待されます。 | ||
成果の内容・特徴 | ブナ遺伝資源の長期保存の必要性 ブナ(図1)は、日本の森林を構成する主要樹木の一つです。しかし、これまでに多くのブナ林が失われ、今後は地球温暖化によって生育地がさらに縮小することが危惧されています。そのため、ブナ遺伝資源を早急に確保する必要があり、それらを効率よく保存するための種子の長期保存技術の開発が喫緊の課題となっています。 乾燥法によるブナ種子の超低温保存 超低温保存技術は、-150℃以下の超低温温度で生物の器官や細胞を保存する方法で、植物種子の長期保存にも利用されている技術です。一般的な冷蔵庫や冷凍庫では長期間保存できない試料を長期間にわたって保存できることが利点の一つです。そこで本研究では、ブナ遺伝資源の永久的な保存を目指し、ブナ種子(図2)の超低温保存技術の開発に取り組みました。 ブナの種子は通常25~30%程度の水分を持ち、そのままでは超低温保存することができません。そこで、乾燥法により水分量を低下させた含水率の異なるブナの乾燥種子を用いて超低温保存試験をしました。すると、-170℃で超低温保存したブナの保存種子の生存率は、保存時の種子含水率の違いによって異なることが分かりました(図3)。そこで、統計モデルを用いて種子含水率と超低温保存後の種子の生存率の関係を解析し、超低温保存に最適な種子の含水率を調べました。すると、保存後も高い生存率を維持できる種子含水率は9~12%であるということが分かりました。これらの結果から、ブナの種子が乾燥法によって-170℃で超低温保存できること、さらには、高生存率を長期間にわたり維持して保存するための種子含水率の最適値が明らかとなりました。 ブナ林の保全、再生事業への貢献 日本のブナ林の現状とその厳しい将来予測から、現在は、全国的にブナ林の保全、再生事業が展開されています。これらの取り組みを今後も継続していくためには、ブナの苗木を持続的に生産し、供給できる体制が必要です。本研究で確立した種子の超低温保存技術は、日本のブナ遺伝資源の減少や滅失を防ぐだけでなく、苗木生産のための種子の供給源としても利用することができます。 | ||
予算区分 | 実施課題エイb3 | ||
研究担当者 | 遠藤 圭太(林木育種センター)、松下 通也(林木育種センター)、木村 恵(林木育種センター)、栗田 祐子(林木育種センター)、安部 波夫(林木育種センター)、高橋 誠(林木育種センター)、生方 正俊(林木育種センター)、山田 浩雄(関西育種場)、花岡 創(北海道育種場)、塙 栄一(林野庁)、木下 敏(林野庁) | ||
発表論文 | Endoh, K. et al. (2018) Cryopreservation of Fagus crenata seeds: estimation of optimum moisture content for maintenance of seed viability by Bayesian modeling. Can. J. For. Res., 48, 192-196. | ||
発行年度 | 2019 | ||
オリジナルURL | https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2019/documents/p46-47.pdf | ||
収録データベース | 研究成果情報 |